Mozilla Flux

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Firefox Developer Editionは早期Beta版として存続 未署名のアドオンも引き続き利用可能

速報:Firefox 55でDeveloper Editionの廃止が決定 - Mozilla Fluxを公開してから3週間が過ぎた。この間、Mozillaのリリースマネージメントチームが"Dawn project or the end of Aurora"(以下「公式アナウンス」)でAuroraチャンネルの廃止を正式に発表した。ところが、実は公式アナウンスの後も計画が変更されている。本記事執筆時点の最新情報をお伝えしよう。

Auroraチャンネル廃止の影響範囲とスケジュール

Auroraチャンネルの廃止は、Firefoxデスクトップ版のみならずAndroid版も対象となっている。だが、Google Playはアプリの作成者がユーザーを別のアプリに引き継がせることを認めていない。そこで、MozillaはFirefox Aurora for DevelopersアプリをNightlyビルドのアプリに置き換える予定だ。

また、ThunderbirdSeaMonkeyでもFirefoxのAuroraチャンネル廃止と同様の措置が執られる。これによりEarlybirdも終了となる。

Firefoxの新しいスケジュール(米国時間。以下同じ)は以下の公式画像が見やすい。ただ、RapidRelease/Calendar - MozillaWikiによるとFirefox 56のリリース時期は2017年9月26日となっている。公式画像は古いスケジュールのまま作ってしまったようだ。

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Firefox Developer EditionはBeta版の派生ビルドへ移行

Mozillaは、Auroraチャンネルの廃止後もFirefox Developer Editionの提供を続ける。これまでと違うのは、Firefox Beta版をベースにする点だ。従来通り独立したブランドとしてMozillaのWebサイトで公開されるほか、従来のユーザーにはBeta版をベースにした新Developer Editionが自動アップデートで提供される(Bug 1353825)。この際、Developer Edition用のプロファイルは維持され、設定やテーマだけでなくショートカットも変更されることはない。

新Developer Editionは、通常Beta版と同様に概ね週2回のアップデート間隔になる。もっとも、アップデートの設定上は「早期Beta」と呼ばれて区別され、NightlyからBetaへの移行時、まずは新Developer Editionのユーザーが対象になるという差がある。ここで問題が見つかった機能は無効化されて、通常Beta版ユーザーに提供される。おそらく、他にも新機能を実験的に有効化するなど、新Developer Editionだけに適用される措置があるだろう。

公式アナウンスが出たのは2017年4月17日だが、この時点で新Developer Editionは通常Beta版のrepackつまりカスタマイズ版になるはずだった。Mozillaは提携企業がFirefoxのカスタマイズ版を作成できるようにしているが、この機能を利用していわば公式カスタマイズ版となる新Developer Editionを作成し、作業に要する時間やコストを抑えようとしたのだ。

しかし、この方法ではmacOS版において問題が発生することがわかった。Developer Editionのアイコンやアプリケーション名が変更されてしまうのだ。検討の結果、Auroraチャンネルの廃止によって浮いたリソースを流用し、Betaチャンネルのコードを基にDeveloper Editionビルドが作成されることになった(4月21日決定)。この方法だと自動化テストも必要になるため、カスタマイズ版よりも作業時間やコストは大幅に増える。

ユーザーにとって大きいのは、Beta版のカスタマイズではなく独自ビルドとなったことで、従来のDeveloper Editionと同様に、Mozilla Add-ons(AMO)のデジタル署名が付いていないアドオンを引き続き利用できるという部分だろう。副作用としてリリース候補版相当のアップデートが受け取れなくなるが、早期Beta版の位置付けからすればほとんど問題にならない。

ローカライズはNightlyチャンネルでの作業がメインに

Auroraチャンネルが廃止されると、Firefoxのローカライズ作業は必然的にNightlyチャンネルがその中心となる。では、Nightlyからリリースまでの期間が6~8週間も短縮されることに、どう対処していくのか。

1つの回答が、cross-channelの導入である。すなわち、Nightly用・Beta版用・リリース版用に分かれているローカライズ向けリポジトリを一本化する。そうすることで作業の重複を省き、新規投入・修正される文字列の翻訳に集中することができるわけだ。Mozilla Corp.でローカライズ担当エンジニアを務めるFrancesco Lodolo氏によれば、Auroraチャンネルの廃止時期が予期せず前倒しになったため、cross-channelを直ちに導入することはできないものの、Nightly 56への切り替えには何とか間に合わせるという。

もう1つの回答が、2017年後半に予定されるL20nの導入である。L20nはローカライズ・国際化に関する新しいフレームワークであり、これがFirefoxに実装されると、FTL構文を用いることで翻訳担当者の作業が容易になるだけでなく、Firefox本体のリリースから独立したローカライズ部分のアップデート(「翻訳のライブアップデート」と呼ばれる)も可能になる。要するに、リリース直前に文字列の修正などがあって翻訳作業が間に合わない場合でも、後から翻訳されたものに差し替えられるようになるのだ。

トップダウンの決定?

Auroraチャンネルの廃止が判明してから3週間の動きを見ていると、Mozillaの準備不足が目につく。過去に類似の計画が実現できずに終わっているにもかかわらず、リリースマネージメントの担当者らは実施方法の細部を詰めていなかったし、実施時期についてローカライズ担当者らとの調整も行っていなかった。しかも、Auroraチャンネル廃止の狙いであったはずのビルド作業・テストの省力化は、Developer Editionビルドの作成を決めた時点で実現できなくなったわけだが、そのことで揉めた様子もない。これらのことから、筆者は今回の廃止がトップダウンによるものではないかと疑っている。

Nightlyからリリースまでの期間が短くなれば、ユーザーは最新の機能を従来よりも早く手元で使うことができる。同じことを開発者サイドから眺めてみると、QuantumプロジェクトのようにFirefox 57で一定の成果を示すといった形で締切りが決まっている場合、より締切りに近い時期まで開発作業を続けることが可能になる。ユーザーの得になるうえ6~8週間の開発期間が捻出できるとなれば、Firefox開発の責任者としては多少の無理を押してでも実行に移そうとするのではないか。外部からは知るよしもないが、Senior Vice President, FirefoxのMark Mayo氏か、Vice President, Product, FirefoxのNick Nguyen氏のコメントを聞いてみたいものだ。

(17/06/13追記)
米国時間の5月26日ころに Firefox 54 Beta 11ベースのDeveloper Editionのインストーラが公開され、6月1日には既存のDeveloper Editionユーザーに対しBeta 12ベースのアップデートの配信が開始された