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Thunderbirdが波に呑まれないために

Google Wave(以下Wave)があちこちで話題だ。メッセージングとコラボレーションのための新ツールとして、広く報道がなされ、分析も出始めている。たとえば次のように。

【詳報】Google Waveとは何なのか? − @IT

1分ずつ見る「Google Wave」デモ×11 − Publickey

名刺にメールアドレスではなくWaveアドレスを書く時代がすぐそこに? - アンカテ

Waveのコンセプトは、「もしいま、メールというシステムを最初から作り直すとしたら、どんなものになるだろうか」だという。Waveがその目論見どおりEメールを完全に置き換えるとするなら、Thunderbirdのようなメールソフトは用済みになるだろう。WaveのクライアントはFirefoxなどのWebブラウザであり、専用ソフトを必要としないのだから。

今でさえ、Eメール時代の終焉を声高に主張する人は少なくない。たとえば、ComputerworldUKの『How Can We Save Thunderbird Now Email is Dying?』は、TwitterやFacebookが参加型コミュニケーションを主流に押し上げており、メールソフトたるThunderbirdは、そうした新しい潮流を踏まえたツールに脱皮しなければ生き残れないとしていた。

そこに加えて、GoogleがWaveでコミュニケーションの新しい枠組みを提示してきたわけだ。Twitterと同じく参加型のシステムであり、複数の相手とリアルタイムでやりとりしながらも、そのトピックのログ(これをスレッドではなく「wave」と呼ぶようだ)はXMLファイルとして記録されるため別の参加者から参照可能で、しかも添付ファイルの貼り付けも簡単。Eメールのお株を奪うに充分そうだ。ThunderbirdはWaveの大波に呑み込まれて消えていく運命なのだろうか。

趨勢を占う鍵は、同期か非同期かという点の違いである。Waveは同期型コミュニケーションを中心に、非同期型も可能という仕組みに見える。つまりリアルタイムのやりとりがまずあって、後からそこに参加する人が追いつけるようにすべくログがあるという扱いだ。メールだとメッセージごとに分割されてしまうが、Waveには一覧性がある。

対するEメールは、非同期型コミュニケーションが中心になる。それはそれでメリットもあって、ユーザーが時間的に拘束されないのは非常に大きい。人間がリアルタイムで処理できることには限りがあるので、ある程度考えて文章をまとめるという作業が要求されるなら、非同期型コミュニケーションという有り様が不可欠だ。また、相手が発言しようとスタンバイしているのに、それを待たせながら数十行の文章を投下しようとするのは無茶である。長文のやりとりをするならEメールという形式は優れており、Waveでも最初から参加者の間でそうした使い方をすると決めていれば同じことは可能だろうが、イレギュラーな使用法のように思える。ユーザーはどちらかといえば、EメールとWaveを使い分ける方向に進むのではないか。たとえば、数行単位のやりとりをリアルタイムで行い、知識なり方向性なりを共有したら、あとはメールでというように。

もう一点、Eメールは送信相手を容易にコントロールできるが、これもWaveとは違う点だ。デモを見るかぎり、Waveのコミュニケーションは参加者全員にオープンで、脇にそれて見えないところで一対一の対話をするのは難しそうだ。Eメールなら受取人欄を操作するだけで可能になることが、Waveだとそうはいかない。ここで重要なのは、やりとりの内容を見られないことはもちろん、やりとりがあったこと自体も知られない点である。Waveにもプライベート・リプライという機能があり、見えないところで一対一の対話をすることは可能なようだが、リアルタイムでのやりとりの最中にレスポンスが途切れると周囲に不自然に思われるかもしれない。また、やりとり自体はログに記録されているため、完全なログのバックアップが可能なら、そうした権限をもつ参加者にやりとりを知られるのではないかとの懸念もある。逆にそうしたバックアップができないとするとデータの安全性が問題だ。結局のところ完全にプライベートなやりとりをしたいなら、メールのほうが向いている。

ここまではEメール対Waveという一般的な構図だった。では、Thunderbirdというソフトに何ができるだろうか。おそらく、Thunderbird 3に実装されるGlodaというデータベースをどこまで活用できるかが勝敗を分けるだろう。Glodaは、メッセージのインデックスの集合体であり、蓄積されたメッセージを資産に変える。管理下に置いたメールを対象にするところからスタートするが、将来的に拡張の余地がある。同期的かつ参加型のコミュニケーションに関してもインターフェイスを用意しつつ、Thunderbirdがそれらのメッセージをデータベース化していくならば、ユーザーは他も含めたメッセージ全体を横断的に検索できるようになる。

とはいえ、Waveのようなリッチなものにいきなり手を出すのは難しい。まずはTwitterへの対応が試金石になるのではないか。ThunderbirdがTwitterクライアントになり、各つぶやきはデータベースに登録され、あるトピックについて検索を行うと、つぶやきはもちろん、メールも対象になるというものだ。別のクライアントでつぶやいた内容をインポートする機能もあればなおいい。

つぶやきだけを検索することはTwitterでできるが、メールも含めた検索ができるのはThunderbirdだけ。そこがセールスポイントになる。さらに進めて、Web検索との連動という手もある。ThunderbirdはFirefoxと共通のエンジンを搭載し、バージョン3からはタブ表示にも対応するから、技術的にそれほど困難ではないはずだ。あとは見せ方次第である。

まとめよう。Waveが普及してもEメールは終わらないし、Thunderbirdも新たなメッセージングの形態を取り込みつつ、蓄積されたメッセージを資産として活かすことで、波に呑まれず生き残ることができる。悲観する必要はない。