Mozilla Flux

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Firefox 3.1のリリースを巡る多少の状況

Internet Explorer 8のRCが今月中にリリースされるらしい。正式版は3月末か、遅くても4月初めだろう。Firefox 3.1のリリース時期と被るわけだが、開発の進み具合からすると、Firefoxのほうが後になりそうだ。4月半ばくらいだろうか。

できれば、Firefox 3.1のリリースが先行してほしいとずっと思っていた。IE8がWeb上で話題を独占している中、昨年6月のDownload Dayのような盛り上がりを再現するのはかなり難しい。いっそ時期が一ヶ月以上ずれればこの懸念は薄らぐが、そこまで遅れるとMozillaの開発能力に疑問符がつきかねない。

Firefoxのライバルは、IEとSafariだ。Operaはモバイルにターゲットを移したから、ここ一、二年はぶつからない。Google Chromeは、機能的に見劣りする。他のWebブラウザ並の機能を備え、アドオンが揃うまで二年くらいかかるだろう。つまり、二年後にはOperaやChromeとの勝負まで考えないといけないが、それまではOS標準である二つのブラウザ、IEとSafariが直接の競争相手になる。何の競争かといえば、もちろんシェアの奪い合いだ。

Firefoxの世界シェアは20%を超えた。次の目標は25%になるだろう。Mozillaが収入の大半をGoogleに依存している事実は広く知られているが、Googleが大金を支払うのは、Firefoxのホームページと検索窓を買い取ることで、大量のトラフィックを獲得できるからだ。トラフィックの前提には、ブラウザのシェアがある。なので、Firefoxが潤沢な開発資金を調達し続けるには、シェアがどうしても必要だ。逆に、Firefoxが高いシェアを保持してさえいれば、Googleが将来契約を更新しなかったとしても、Mozillaに金を出そうという企業は必ず現れるだろう。

IEとSafariのシェアを比べれば、IEのほうが圧倒的に大きい。現状がそうである以上、Firefoxがシェアを伸ばそうとすれば、これまで同様IEからの乗り換えを狙うのが合理的だ。とはいえ、IEはディフェンディングチャンピオンである。IE8がFirefox 3.1より高性能でなくてもかまわない。乗り換えるまでもないかと思わせれば勝ちになる。

その意味で、IE8はFirefoxにとって脅威だ。ここは強調しておきたい。今年一年、はっきりいってChromeのことはどうでもいい。重要なのは、IE8がどのように受け入れられ、IE全体のシェアとその中の配分がどうなっていくのか。とくに、IE7やIE6を急速に置き換えていく事態になると怖い。Firefoxの側からすると、3.1をリリースしたのにシェアの伸びが鈍るという、最悪のシナリオに結びつくからだ。

Firefoxの開発状況を書いたり読んだりする人は、プロアマ問わず技術的な関心が高いので、ついChromeに目がいってしまいがちだ。実際、TraceMonkeyとV8のどちらが上かみたいな話題のほうが、利用者の総合的な満足度といった地味な話に比べて盛り上がりやすい。また、Firefoxの開発者がChromeに刺激され、一部の機能(DNSプリフェッチなど)を取り入れたことの影響もあるだろう。そして、技術的な土俵で勝負すると、SunSpiderやAcid3の成績ではIE8は振るわないので、「やっぱりたいしたことない」と片付けられることが多い。

しかし、ベンチマークやテストページの成績を見てWebブラウザを乗り換えようと考える人は、ユーザー全体を眺めればごく少数である。ふつうは、今使っているブラウザに不満があるから、ほかを試してみようと思うはず。では、不満を覚えない程度に完成度の高いものを既に提供されていたら? 隣にいくら優秀なWebブラウザがあっても、コストをかけてまで乗り換えようとする人がどれくらいいるだろうか。

IE8は、IE7と比較して、コンテンツの表示速度を大幅に引き上げてきたし、タブ機能を強化するなどインターフェイス面でも改良が加えられている。標準準拠の点でも、Acid2はクリアしている。その他もろもろの新機能についてはともかく、主流ブラウザにおける標準的な機能に着目したとき、その完成度は高いというべきだ。したがって、技術的な最先端にはいなくても、Firefoxにとってはシェア獲得を阻む高い壁になると予想される。

これまで、Firefoxのシェアは上昇傾向が続いてきた。その勢いを維持するため、IE8という高い壁ができる前に3.1をリリースして、Firefoxに触れるユーザーの数をできるだけ増やしておきたかった。だが、もうそれは叶わないだろう。皮肉なのは、3.1のアピールポイントでトップに来るであろうTraceMonkeyが、開発の重荷になっていることだ。これがなければ昨年末にリリースできたのではと思う一方、TraceMonkeyによるスピードアップを抜きにすると、先行者の利益がグッと減ったことは間違いない。

IE8のリリース後、あるユーザー層が無視できない厚みをもって出現することを覚悟しなければいけない。それは、IE7には多少不満があったが、IE8には十分満足という層だ。この層にFirefoxが切り込んでいこうとすれば、「あなたは不満を感じていないかもしれないが、実は……」と無意識の不満を掘り起こすようなPRが大事になってくる。これは相当に骨の折れる仕事で、アドオンとの連携も含め、かなり具体的な例をいくつも示す必要がある。それでも、積極的なPR活動をしなければ、Firefoxの苦戦は必至だと思われる。