Mozilla Flux

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IE8に対するFirefox開発者の反応とその分析

Internet Explorere 8(IE8)がリリースされた。Microsoftが満を持して放つ新型Webブラウザだ。公式ブログでビデオや文書を出して、日常使用のレベルでいかに高速になったかを積極的にアピールする様子は、同社の本気度を表している。

筆者もインストールしてみたが、宣伝されているとおり、起動やページの表示などでIE7よりも速くなったことを体感できた。スクロールが遅い点もスムーズスクロールをオフにすることで改善した。

このIE8に対して、Mozillaは、あるいはFirefox開発者たちはどう思っているのだろう。今のところ公式のアナウンスはなく、おそらく今後も統一見解のようなものは出ないだろう。ただ、個人のレベルで開発者が意見を述べることはある。

Mozillaのニュースグループの一つmoz.dev.apps.firefoxで、主要開発者の一人Boris Zbarsky氏が、IE8について簡単にコメントしているのもその一つだ。

Zbarsky氏は、まず、Microsoftが発表したベンチマーク結果に疑問を示す。トップサイトについて読み込み速度をテストしたというが、それらは既にIEに最適化されていた面があるのではないか、と。加えて、それらのページがWebアプリケーションに比べてスクリプトが少ないのではないかとも指摘する。

また、PC Proの"Product Reviews: Microsoft Internet Explorer 8"を引用して、Googleドキュメントの読み込みテストでは、FirefoxとGoogle ChromeがIE8よりも高速との結果が出たことを、具体例として主張の補強材料に使っている。

Zbarsky氏によれば、Microsoftは、昨年書かれたWebサイトについて読み込みが速いと言っているが、Mozillaは、今年書かれた、あるいは来年書かれるであろうWebサイトで速くあろうとしている、とのこと。

筆者はZbarsky氏の意見におおむね賛成だが、MicrosoftがテストしたWebサイトがIE8に有利だったとする点には事実誤認がある。たしかに、Webサイトがユーザーエージェントを判定して、IEと、たとえばFirefoxで表示内容を変えているのであれば、公正なテストとはいえない。しかし、Microsoftもそのことは当然わかっており、同社が出したホワイトペーパー"Measuring Browser Performance"では、特定のブラウザをターゲットにしたコンテンツについて、表示内容が大きく異なるものはテスト対象から省いたと述べている。

他の点では、Zbarsky氏の指摘は的を射ている。Webアプリケーションが少しずつデスクトップアプリケーションを置き換えていく状況が現にある以上、既存ページの読み込みが速くなっただけでは不十分だ。Webブラウザは、スクリプトの処理も含めた総合性能を上げていく必要がある。その意味で、「最速ブラウザ」争いは無意味だとの意見は見通しを誤っている。競争がパフォーマンスアップを促進するのだから。前記PC Proの記事も、Microsoft自身がMS OfficeをWebアプリケーション化しようとする中で、他のブラウザに後れを取るのはまずいだろうと論評しているが、こちらの見方のほうが妥当だろう。

もちろん、IE8がIE7より優れていることは間違いない。標準準拠の点では、CSS2.1に関して厳しい内部テストを課し、Acid2テストもクリアした。JavaScriptの性能でも、ベンチマークの結果は振るわない*1ものの、Google MapはFirefox 3と同じくらいスムーズに動作しており、体感速度の向上に力を注いだとの主張も嘘ではない。IE8は、ユーザーが他のブラウザに流れるのを食い止め、一部では逆流も起こす可能性がある。当面のシェアの維持には大きく貢献するだろう。

しかし、モダンブラウザと称されるライバルたちに及ばなかったことと、次のIE9が出るまでに最低2年はかかりそうなことがネックだ。その間にWebアプリケーションが大きく普及する事態になれば、相当に厳しいことになる。サービスパックでJavaScriptのJIT機能を提供しようにも、既存サイトとの互換性などを考えると難しい。要するに、IE8の真価が問われるのは1〜2年後であり、その時点でWebの進化がスローダウンしていれば勝ちだが、そうでないときはFirefoxその他に再度シェアを奪われるだろう。ただ、"Chrome Experiments"を見るだけでも、IE8にとって分の悪い賭になりそうな気配は濃厚に感じられる。

(09/03/21追記)
IE8の拡張機能をFirefoxと比較したものとして、Firefox Hacks翻訳日記の『IE のアドオン事情』がある。

また、もずはっく日記の『[BB Watch] 「Safari 4」パブリックベータ版を早速インストール』は、検索バーで日本語入力中に候補表示を行うのがいかに難しいかを説明しているのだが、ユーザービリティを追究したIE8がSafari 4のように踏み込まなかった点は興味深い。

*1:筆者の環境では、SunSpiderベンチマークで、Firefox 3.0.7の6730.6ms +/- 0.8%に対し、IE8は11211.4ms +/- 0.7%だった。