Mozilla Flux

Mozilla関係の情報に特化したブログです。

Firefox OSの主戦場は"Connected Devices"へ 「開発中止」はデマ

米TechCrunchの記事"Mozilla Will Stop Developing And Selling Firefox OS Smartphones"はかなりのインパクトをもって迎えられ、各所から後追い記事が出てきた。日本語で読める記事としては、「Firefox OS搭載端末の開発・販売終了」報道にMozillaエンジニアがコメント - ITmedia ニュースがよくまとまっている。他方、残念ながら一部には飛ばし記事も見られ、Firefox OSの開発が打ち切られる、などと煽るありさまだ。

米TechCrunchの記事が紛らわしいタイトルをつけたのも悪いが、記事中のMozilla幹部のコメントを読めば、「通信事業者のチャンネルを通じたFirefox OS搭載スマートフォンの提供を中止する」と言っているだけだとわかるはず。Firefox OSの開発自体を打ち切るという話では全くない。開発が継続されることは、mozilla.dev.fxosフォーラムの"Will Firefox OS continue to be developed?"を読めばさらにはっきりする。Mozilla CorporationのソフトウェアエンジニアであるKevin Grandon氏(Firefox OS開発担当)は、「Firefox OSの開発は継続されるが、これまでとは目的が異なる」とコメントしている。また、同社のソフトウェアエンジニアであるGreg Weng氏(前同)も、マーケティングチームがその点を明確にすべきとしており、Grandon氏のコメントを肯定している。なお、同社のSenior Product ManagerであるWilfred Devshanth Mathanaraj氏(Firefox OSプラットフォーム担当)によれば、Mozillaはプレスリリースを準備中だという。*1

そもそも、Mozillaがどんな場で発表を行ったのかを理解していれば、Firefox OSの開発中止などという誤解はあり得ない。発表の場であるMozlando 2015は、2015年12月7日から12日までの間、米国フロリダ州オーランドにおいて開催されるMozillaのWork Weekであり、Mozilla Corp.の従業員の大半が参加している。Mozillaにとって、年に2回の大イベントである。そんな場でFirefox OSの開発中止を発表したら、たいへんなことになる。多数の従業員が開発に関わっており、その中止は大規模なリストラを意味するからだ。逆に言えば、会社としてMozlandoを発表の場に選んだこと自体が、従業員に対するメッセージなのだろう。方針転換はしましたが、あなた方の首を切るわけじゃありませんよ、というわけだ。

さて、「開発中止」はデマだとわかったところで、上記の「通信事業者のチャンネルを通じたFirefox OS搭載スマートフォンの提供を中止する」の意味を考えてみたい。この意味を狭く捉えれば、Mozillaが今後認めないのは、通信事業者が自社製アプリを載せるなどのカスタマイズを施したFirefox OS搭載スマートフォンを販売することに限られよう。つまり、Mozillaがオープンソースで開発しているFirefox OSをそのまま載せるのであれば、通信事業者が回線契約を増やす目的で、スマートフォンを販売してもよいことになる。現に、コミュニティ内にはそうした見方もある。

だが、MozillaはFirefoxのブランドを管理している。仮に「素の」Firefox OSを搭載するのだとしても、通信事業者がFirefox OSの名称を使用しつつビジネスを行う以上、Mozillaの許可が必要となる。Mozillaが「通信事業者のチャンネル」を否定している以上、通信事業者にはFirefox OSの名称を使わせないという趣旨に理解するのが素直ではないだろうか。今後はConnected Devicesに注力するとしている点からも、そのほうがしっくりくる。

では、Connected Devicesとは何だろうか。ここで思い出されるのは、Panasonicが4KスマートTVにFirefox OSを採用した件だ。スマートTVの分野は、まだiOS/Androidに席巻されていないし、今後の端末の普及も見込める。前述のMathanaraj氏は、「Connected Devicesといっても広く薄くということではない」旨を述べており、事業の柱としては、Raspberry Piへの移植よりも、スマートTVのほうが可能性は高そうだ。

(15/12/10追記)
Firefox OS Pivot to Connected Devices | The Mozilla Blogという公式記事が公開された。本文は抽象的で目新しい部分はないようだが、タイトルがすべてを物語っている。Firefox OSは、別の分野にピボット(方向転換)するだけで、なくなりはしない。逆に言えば、(ITベンチャーのように)ピボットという言葉を使う以上、スマートフォンの分野には見切りをつけたのだろう。

(15/12/10再追記)
本文でリンクしたASCII.jpの記事は、12月10日13:00時点で「公開当初、記事タイトルおよび一部内容に間違いがありました。お詫びするとともに修正いたします。」との文言が付記されて、タイトルおよび内容が修正された。

また、今回の騒動を概観しつつ興味深い論考を示すものとして、FirefoxOSスマホの開発中止報道について、2・3の思うこと | catch.jp blogが挙げられる。この記事では、「スマートフォンを含むConnected Devices」という解釈がとられている。他方、筆者は、本件の文脈に関する限り、Connected Devicesにスマートフォンは含まれないと考えている。MozillaのAri Jaaksi氏が"Pivot to"という言葉を用いたことで、その点はより明確になったのではないか。ピボット前にスマートフォンのほうを向いていたことは疑いようがなく、向きを変えた先にConnected Devicesがあるというのだから。

*1:本記事執筆時点では公開されていない。