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Mozillaが探る欧州委員会への提案

事の発端は、欧州委員会(European Commission)がMicrosoftに異議告知書を送ったことにある。Internet Explorer(IE)をWindowsにバンドルして配布することが、Webブラウザ間の市場競争を阻害し、欧州共同体競争法(ローマ条約82条)に違反しているとの予備的な結論に達したというのだ。

2月6日になって、Mozilla Foundation会長のMitchell Baker氏は、ブログで欧州委員会の見解に強い賛同の意を表明した。Baker氏は、次のように述べている。Microsoftが実践しているビジネスは、根本的に、インターネットにアクセスするうえでの競争と選択肢、そしてイノベーションを減少させている(事実上消し去っているに近い)、と。

The Mozilla Blogの"Q&A on Mozilla and the European Commission"によれば、Mozillaは、欧州委員会の調査において「利害関係を有する第三者」の地位を得たそうだ。詳細が公開されていない異議告知書を見ることが許され、委員会が同意すれば、公聴会に参加することも可能となった。Mozillaは、Webブラウザ業界における知見を委員会に提供したいとしている。その中には、委員会が取るべき救済方法も含まれる。

以上の経緯から、Mozillaは今、この件に関する議論を深めようとしている。多くの人の関心を引くとともに、広く意見を募って、適切な救済方法を見出そうと考えている。MozillaのエバンジェリストであるAsa Dotzler氏がブログで熱心に議論を呼びかけているのも、その例の一つだ。

さて、当ブログでもどのような救済方法があるのか検討してみたい。最初に断っておくが、これは思考実験である。欧州委員会はまだ結論を出していないし、最終的に予備的結論を踏襲するとしても、それに対する反論はあるだろう。あるいは、もっと原則的なレベルで、公権力が市場に介入するのは極力避けるべきとの意見も考えられる。ここから先は、そうした点をとりあえず脇に置いて、委員会の措置をシミュレーションした内容である。

真っ先に思いつくのは、Windows Media Playerのときのように、IEを載せないWindowsをMicrosoftに作らせることだが、これを実現させるのは相当に難しいだろう。IEはWindowsと強く結びついているので、実際には切り離すというよりIEが起動する場面でそれを止める形になるのだろうが、方法はともかく、Webブラウザが使えなくなるのはユーザーが困る。極めて不便であるのはもちろん、たとえばFirefoxをダウンロードしたくてもできなくなってしまう。

IE以外のWebブラウザもバンドルするようにして、OSの初回起動時にユーザーが標準を選ぶのではどうか。これだと、どれを候補に選ぶかが大問題になるだろう。仮にシェアがトップ5までと決めるとすると、なぜトップ7ではないのかという話になる。欧州だけとはいえ、Windowsに自社ブラウザがバンドルされるかもしれないとなれば、ボーダーラインをどこにするかで当然もめるだろう。また、シェアが1%以上といったように数値を基準にすると、今度は判定資料の選定や正確性に厳密さが求められて意見が分かれるだろうし、0.5%でないのはなぜかといった恣意性にまつわる疑問もやはり拭えない。

さらにいえば、どのような基準で選ぶにせよ、FirefoxとSafariは確実に含まれるはずである。MozillaとAppleは、ユーザーにダウンロードしてもらう努力をしなくても、Microsoftの販売ネットワークにただ乗りし、ヨーロッパ中に自分たちのWebブラウザを配布することができる。そして、ここが重要なところだが、ユーザーは有名なブラウザを選ぶ可能性が非常に高い。もちろん、多くの場合はIEということになるだろうが、それ以外に一般のユーザーが名前を耳にしたことのあるブラウザは少ないと思われる。削られたIEのシェアの大半がFirefoxとSafariに回る。ある意味で目論見どおりとはいえ、それは本当に公正な競争の結果なのか。MozillaとAppleに不当に有利な取決めにも見える。

Appleは営利企業だからまずいが、Mozillaは非営利企業だからOKと考えている人がもしいるとすれば、それは違う。GoogleがMozillaに大金を支払うのは、Firefoxのシェアと結びついた集客力を評価してのことだ。利益を株主に分配する仕組みになっていないことは、不当に儲けてもよい理由にはならない。ここでいう不当に儲けるとは、真に公正な競争の下では他のプレイヤーが得るはずの利益を奪うことを意味する。

バンドルにこだわるのがそもそも間違いなのかもしれない。Mozillaが主張するようにWebブラウザ業界というものが存在するのならば、業界団体が専用のWebサイトを作り、Windowsにはそこにだけアクセスできるソフトを組み込む方法も一つの手だ。あるいは、独立のソフトではなく、Windows Updateを拡張する形でもいい。

そのWebサイトには、登録されたWebブラウザが並び、ユーザーが一つを選択すると、ダウンロードされてインストールがおこなわれる。ただ、IEだけはやや特殊で、ロックを外すような扱いになる。誰でも登録できるとなると危険なソフトが入り込むから、第三者機関の審査をパスしたものだけといった条件をつけることになろう。

もちろん、この方法でも有名どころが選ばれる傾向は変わらないわけだが、少なくともどこかで線を引いて、バンドルするWebブラウザを選別するよりは、はるかに市場での自由競争に近い。詳細情報のページは、あらかじめ決められたルールに従って各自が用意するものとしておけば、アピールの機会も確保できる。

ごく簡単な試案を書き綴ってみた。現在はさまざまなアイデアがMozillaの内外を飛び交っている状況だが、最終的にいくつかの案に落ち着くと思われる。それが発表されたら、また記事で扱いたい。