Mozilla Flux

Mozilla関係の情報に特化したブログです。

Firefoxは2017年も変則的なリリース間隔を採用

2016年に入ってから、Firefoxのメジャーアップデートのリリース間隔は6週間に固定されなくなったが、この方針は2017年も継続される。RapidRelease/Calendar - MozillaWikiに記載されているとおり、6週間から8週間の変則的なスケジュールが採用され、年に7回のメジャーアップデートが行われる。

以下がその内容だ(米国時間ベース)。なお、2017年のクリスマス付近にリリース予定日が重ならないため、50.0.1(修正後50.1.0)のような特殊なスケジュールは組まれていない。

リリース予定日 正式版 ESR
2016-11-15 Firefox 50 Firefox 45.5
2016-12-13 Firefox 50.1.0 Firefox 45.6
2017-01-24 Firefox 51 Firefox 45.7
2017-03-07 Firefox 52 Firefox 45.8; 52.0
2017-04-19 Firefox 53 Firefox 45.9; 52.1
2017-06-13 Firefox 54 Firefox 52.2
2017-08-08 Firefox 55 Firefox 52.3
2017-09-26 Firefox 56 Firefox 52.4
2017-11-14 Firefox 57 Firefox 52.5
2018-01-16 Firefox 58 Firefox 52.6

変則的なスケジュールの場合、過去のように年8回のメジャーアップデートを行うことができなくなる一方、Update on 2016 Firefox Release Schedule | Future Releasesで指摘されているように、OSの大型アップデートなどのイベントに合わせてリリースのタイミングを柔軟に調整できる。また、今回、Firefox 49のリリースはバグ潰しのために1週間遅れたわけだが、こうしたことがあってもFirefox 50のリリース予定日を維持できるのは、スケジュールに余裕をもたせてあるからだ。

ESR(延長サポート版)についても、正式版のリリースサイクルが延びることは延長サポート期間が延びることを意味する。安定した環境を求めるユーザーにとって、サイクルが6週間固定でないことの恩恵は大きいといえるだろう。

2年続けて同様のスケジュールを採用し、しかも早々とこの時期(正確には2016年8月末)に2017年の予定を打ち出しているところをみると、Mozillaは今後もこのリリース間隔を維持していくと思われる。

(16/10/29追記)
RapidRelease/Calendarの修正に合わせて記載を更新した。

(16/11/15追記)
RapidRelease/Calendarの修正に合わせて記載を更新した。

(17/02/13追記)
RapidRelease/Calendarの修正に合わせて記載を更新した。

(17/04/20追記)
RapidRelease/Calendarの修正に合わせて記載を更新した。

Placesデータベースの読み書き処理を大きく減らす裏技(Firefox 49以降)

Firefoxはブラウジング履歴やブックマークなどの情報をPlacesと呼ばれるSQLiteデータベースに記録している。Placesが壊れてしまうとブックマークが失われたり、ロケーションバーからうまく候補を呼び出せなくなったりするため、FirefoxはジャーナルモードというSQLiteの機能を利用して、データベースの保護に努めている。

Placesを保護する手段の1つが、ログ先行書き込み(WAL:Write-Ahead Logging)だ。SQLiteでは、トランザクション開始から終了までの更新内容を順次「-shm」ファイルに書き込み、コミット時に「-wal」ファイルへと更新内容を書き込む*1。コミットした時点では本体データベースファイルに更新内容を書き込まないため、クラッシュしても本体は無傷で残り、トランザクションも迅速に完了できるというわけだ。Placesの場合、このWALジャーナリングモードが初期設定で有効化されており、本体であるplaces.sqliteのほかに、places.sqlite-shmとplaces.sqlite-walという2つのログファイルが作成される。

これとは別に、PlacesではFULL同期モードが初期設定で採用されており、コンテンツが安全にデータベースに書き込まれたのを確認してから次の処理に進むようになっている。SQLiteの公式サイトの説明によれば、WALジャーナリングモードは通常NORMAL同期モードと呼ばれる相対的に軽い処理のモードを採用することが一般的らしい。あえて重いモードを選択しているあたり、Placesを厳重に保護しようとするMozillaの判断がうかがえる。

だが、これらの保護措置はFirefoxのテスト自動化にとって妨げとなる。大量のディスク入出力(I/O)が発生するからだ。そこで、Firefox 49ではWALジャーナリングモードとFULL同期モードを両方オフにする隠し設定が導入された(Bug 1272025)。これにより、Firefoxの自動テストのような負荷の高い環境では、ギガバイト単位でディスクI/Oを節約できるという。

危険度の高い変更であるため、隠し設定は通常よりも複雑なものとなっている。まず、about:configの画面でplaces.database.disableDurabilityの設定を新規作成し、真偽値をtrueにする。次に、環境変数を追加する。設定値は何でもよく、変数の存在だけが重要だ。ALLOW_PLACES_DATABASE_TO_LOSE_DATA_AND_BECOME_CORRUPTがそれだ。Windowsだとコントロールパネルの「システムの詳細設定」からユーザー環境変数を追加できる。トラブルシューティング情報(about:support)からプロファイルフォルダを開き、places.sqlite-shmとplaces.sqlite-walのファイルが消えていることを確認できれば成功だ。

隠し設定が有効化されると、WALジャーナリングモードはMEMORYジャーナリングモードへと変更され、ロールバックジャーナルと呼ばれるデータベースのバックアップがメモリ上に作成されるようになる。書き込みは直接Placesデータベースに対し行われるので、ログの読み書き分のディスクI/Oがなくなるわけだ。しかも、Placesへの書き込み完了を待たずに次の処理へ移るため、ユーザー側からは書き込み処理に要する時間も短縮されたように見える。

一般ユーザーが使用することを想定していない裏技ではあるが、履歴やブックマークの完全性よりもFirefoxの動作の高速性を選びたいマニア向けに紹介しておく。

Firefox 49でChrome・Safariを基準に作成されたコンテンツの表示精度が向上

Firefox 49では、既存のコンテンツとの互換性を高めるため、-webkit-のベンダープレフィックス(以下「webkit接頭辞」)がついたCSSプロパティや属性を多数サポートしている。layout.css.prefixes.webkitが初期設定で有効化される(Bug 1259345)ことによるもので、ベータ版リリースノートには掲載されていないが、Chrome・Safariを基準に作成されたコンテンツの表示精度が向上するため、一般ユーザーにとっても重要な変更といえるだろう。

サポート対象となる具体的なプロパティや属性については、MDNのFirefox 49 for developersにまとめられている*1。が、初期設定で無効のものが混じっているなど若干煩雑なので、改めて整理しつつ列挙しておこう。

-webkit接頭辞がついていても動作するプロパティ

  1. -webkit-align-items
  2. -webkit-align-content
  3. -webkit-align-self
  4. -webkit-animation
  5. -webkit-animation-delay
  6. -webkit-animation-direction
  7. -webkit-animation-duration
  8. -webkit-animation-fill-mode
  9. -webkit-animation-iteration-count
  10. -webkit-animation-name
  11. -webkit-animation-play-state
  12. -webkit-animation-timing-function
  13. -webkit-backface-visibility
  14. -webkit-background-clip
  15. -webkit-background-origin
  16. -webkit-background-size
  17. -webkit-border-bottom-left-radius
  18. -webkit-border-bottom-right-radius
  19. -webkit-border-image
  20. -webkit-border-top-left-radius
  21. -webkit-border-top-right-radius
  22. -webkit-border-radius
  23. -webkit-box-shadow
  24. -webkit-filter
  25. -webkit-flex
  26. -webkit-flex-basis
  27. -webkit-flex-direction
  28. -webkit-flex-flow
  29. -webkit-flex-grow
  30. -webkit-flex-shrink
  31. -webkit-flex-wrap
  32. -webkit-justify-content
  33. -webkit-order
  34. -webkit-perspective
  35. -webkit-perspective-origin
  36. -webkit-text-size-adjust
  37. -webkit-transform
  38. -webkit-transform-origin
  39. -webkit-transform-style
  40. -webkit-transition
  41. -webkit-transition-delay
  42. -webkit-transition-duration
  43. -webkit-transition-property
  44. -webkit-transition-timing-function
  45. -webkit-user-select

同等の接頭辞つきプロパティに紐づけられてサポートされるプロパティ

  1. -webkit-box-flex
  2. -webkit-box-ordinal-group
  3. -webkit-box-orient
  4. -webkit-box-align
  5. -webkit-box-pack

同等の接頭辞つきプロパティに紐づけられずにサポートされるプロパティ

  1. -webkit-text-fill-color
  2. -webkit-text-stroke-color
  3. -webkit-text-stroke-width
  4. -webkit-text-stroke

CSSグラデーション関係

  1. -webkit-linear-gradient()-webkit-radial-gradient()-webkit-repeating-linear-gradient()および-webkit-repeating-radial-gradient()の各関数は接頭辞なしの同等物に紐づけ
  2. 旧式の-webkit-gradientをサポートし、正規のグラデーションに変換

displayプロパティの値を変換

  1. -webkit-box-moz-boxに変換
  2. -webkit-flexflexに変換
  3. -webkit-inline-box-moz-inline-boxに変換
  4. -webkit-inline-flex-moz-inline-flexに変換

その他

  1. WebKitCSSMatrixインターフェイスをDOMMatrixの別名(エイリアス)として設定
  2. メディアクエリのメディア特性に-webkit-transform-3dを追加


(16/09/22追記)
本記事の掲載後、Firefox 49のリリースに合わせて、Firefox 49 fixes sites designed with WebKit in mind, and more ★ Mozilla Hacks – the Web developer blog(和訳:Webkit を念頭に作成されたサイトで起きるブラウザ互換性問題に対する Firefox の対応 | Mozilla Japan ブログ)が公開されている。

*1:該当するBugzilla@Mozillaのバグについては、mozilla.dev.platformのスレッド"Update on WebKit prefix support in Gecko."が詳しい。

Firefox 48でスマートロケーションバーのデザインが変更 元に戻す設定はなし

Firefox 48のリリースが目前に迫っている。このバージョンの目玉となるのがマルチプロセス機能(e10s)の有効化、Mozillaが推しているのがダウンロード保護の強化という事情もあって、あまり日が当たらないものの、使い勝手の観点からスマートロケーションバーのデザイン変更(Bug 1181078)は見逃せない。

f:id:Rockridge:20160803000355p:plain

Firefox 47までと見比べてみれば一目瞭然だ。これまで、ロケーションバーに文字を打ち込むと、ドロップダウンメニューに表示される候補はタイトルとURLの2行で表示されていた。Firefox 48の新デザインでは、これが1行にまとめて表示される。また、表示される候補の数が6個から10個へと増え(Bug 1195054)、各候補中の入力文字にヒットした箇所が太字で強調表示されるようになった(Bug 1273943)。

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Beta版のリリースノートであっさりした記述になっていたためか、海外ではredditのスレッドにある程度コメントが集まっていたのに対し、国内ではかろうじて窓の杜が言及している程度だ。しかし、ロケーションバーを使用しないユーザーはかなり少数だろうし、ふつうは頻繁に使う機能のはずなので、リリース直後からそれなりに反響を呼んでもおかしくない。否定的な反響のほうが大きくなる可能性すらあるだろう。現に開発版の段階で、1行にまとめると見づらいとか、ドロップダウンメニューが大きすぎるといった批判が出ているからだ。

目立つ変更であっても、元に戻す設定がどこかに設けられていれば批判の矛先をかわすこともできるのだが、あいにく今回の変更は不可逆的なもので、設定で元に戻すことはできない。Australisが導入された際にClassic Theme Restorerが出たように、元のデザインに戻す拡張機能が出てこない限り、ユーザーとしては新デザインに慣れるしかない。

速報:Firefox 49本体からFirefox Helloが削除

Firefox 49本体からFirefox Helloが削除されたことが判明した(Bug 1287827)。Mozilla plans to remove Hello from Firefox 49 - gHacks Tech Newsで既報だが、該当バグのステータスはRESOLVED FIXEDとなっており、確定事項だ。米国時間の2016年7月19日時点で削除は決定されていたようだが、7月29日の午前3時過ぎまでBugzilla@Mozillaで秘匿指定がされていたため、情報が伏せられていた。

Firefox HelloはWebRTCの技術を利用してブラウザ内でビデオ(音声)通話を行うシステムで、相手方とWebページを共有して議論することに重点を置き、サインインなどの手続きがいらないという特徴を持つ。MozillaはスペインTelefónica社傘下の米TokBox社と提携し、Firefox Helloのプラットフォームとして同社のOpenTokを採用しており、その動作にはプラグインを必要としない。

2014年5月末にNightlyチャンネルでテストが始まり、ある時期までLoopのコード名で呼ばれていた。当初のコンセプトは、クロスプラットフォームな動画チャットアプリであり、ブラウザオンリーでWebRTCが有効なChromeやOperaとも通話できる点に目新しさがあった。デフォルトでツールバーにボタンが置かれるなど、Mozillaが一時期Firefox Helloを強く推していたのは間違いない。ユーザーからのフィードバックを受けて通話プロセスを簡略化したのも、利用を促進したいと思えばこそだ。

Firefox HelloはFirefox 35で正式にリリースされ、アクティブなタブまたはウィンドウの共有機能がFirefox 38.0.5で導入されている。Firefox 39では、ビデオ通話を開始するためのリンクを、本体に統合されたソーシャルサービスを通じて共有できるようになった

もっとも、MozillaはFirefox 45でFirefox Helloのコンセプトを変更した。現在のように「特定のWebページを互いに見ながら動画で通話する」ことを前面に出すようになったのだ。同時に、システムアドオンと呼ばれる特殊な拡張機能として提供されるようになり、アップデートの頻度が本体に縛られなくなった。最近では、マルチプロセス機能(e10s)にも対応し新ブランチも設けられていたので、開発が停滞していたとはいえない。

突然Firefox Helloが削除されることになった理由は、Bugzilla@Mozillaの該当バグを見てもわからず、推測するほかない。昨年からMozillaは、「Great or Dead(成功か死か)」を合い言葉に利用者の少ないプロジェクトを打ち切っており、今回もその一環と考えられる。前記gHacksの記事が指摘するように、同じシステムアドオンであるFlyWeb(クラウドを介さずにスマートフォンと電子機器が相互に接続できる仕組み)に人的リソースを回すつもりなのかもしれない。

削除されたFirefox Helloはどうなるのだろうか。既にある種の拡張機能の形式になっているので、少し手を入れてMozilla Add-ons(AMO)で公開ということも考えられるが、残念ながらその望みは薄い。なぜなら、ベースとなるOpenTokの利用が有償だからだ。Mozillaにとって終わりが見えている機能に対して支出を続けるのは難しい。仮にアドオンとしての存続があるとしても、時限的な措置となるだろう。

(16/08/08追記)
米国時間の8月3日、Firefox 49ベータ版のリリースノートにおいてFirefox Helloの廃止が発表された。これを受けて、Hello のサポートが Firefox 49 で終了します | Firefox ヘルプでは、Firefox Helloの代替サービスを紹介している。