Mozilla Flux

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速報: MozillaがPocket(旧Read It Later)をFirefox本体に統合(追記あり)

「あとで読む」系サービスとして有名なPocket(旧Read It Later)が、Firefox本体に統合されることが判明した(Bug 1155467)。正式発表は行われていないものの、2015年6月2日(米国時間)にリリース予定のFirefox 38.0.5が統合のターゲットとされており、近日中にMozillaからアナウンスがあるとみられる。

Pocketとは

Pocketは、サンフランシスコに本社を置くRead It Later, Inc(以下RIL社)が提供するアプリケーションおよびサービス。RIL社による概要の説明は、以下のとおり。

Pocket は、面白い記事やビデオ、その他のウェブコンテンツを「後の楽しみに保存しておきたい」という人のため、ネイト・ウィーナーにより2007年に設立されました。一旦 Pocket に保存されると、コンテンツのリストが—携帯電話やタブレット、コンピュータなど、どんなデバイスでも見れるようになります。順番待ちの時、ソファでくつろぎ中、または通勤時や旅行時—など、オフラインであっても閲覧可能です。

世界をリードする弊社の「後で読む」(save-for-later)サービスは現在、1,200万以上の登録ユーザーを抱えており、Flipboard や Twitter、Zite など、500以上のアプリと連携しています。また、iPad や iPhone、Android、Mac、Kindle Fire、Kobo、Google Chrome、Safari、Firefox、Opera、Windows など、主なデバイスやプラットフォームに対応しています。

Firefox向けにはアドオンSocial APIボタンが提供されている。また、最近デザインが刷新されたWebアプリは、2014年3月時点で日本語に対応済みである。なお、日本はRIL社にとって米英に次ぐ市場だという。

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統合の具体的な内容

Firefox 38.0.5のリリースまで時間が限られているため、最初の段階における統合は基本的なレベルにとどまる。具体的には、ツールバーにPocketボタンが設置され(Bug 1155523)、コンテキストメニューに「Pocketに保存する」旨の項目が(Bug 1155518)、ブックマークメニューに「Pocketのコンテンツを見る」旨の項目が(Bug 1155519)、それぞれ追加される。

統合されたPocketは、デフォルトで有効化されるため、既にPocketのアドオンやSocial APIボタンがインストールされている場合、アドオン/ボタン側が自動で無効化(または削除)されるようだ(Bug 1155521)。ただ、アドオン版Pocketの機能を当初から網羅することは難しいとみられ、既存ユーザーはアドオンを再度有効化する必要が出てくるかもしれない。

もともと、Mozillaはローカル版「あとで読む」機能というべきリーダーモードをAndroid版Firefoxに実装しており、この機能をデスクトップ版にも実装して、保存リストをデバイス間で同期可能にする予定だった(Bug 1123529)。まさにFirefox 38.0.5でデスクトップ版リーダーモード機能を有効化すべく、開発も続けられていた(Bug 1148098)。今回の急な方針転換は、Mozilla Corporation(以下Mozilla Corp.)とRIL社との合意が最近になって行われたことを示すものだろう。

Pocketの統合が優先されるため、リーダーモード機能の開発はひとまず中断されることになるが(Bug 1155515)、これまでの開発が全く無駄になったわけではない。将来的にPocketで保存したコンテンツをローカルでも閲覧できるようにする際、デザインを調整しつつ機能が再利用されるためだ(Bug 1155536)。

統合によるメリット

今回の統合におけるRIL社側のメリットは明らかだ。1億人近いFirefoxのアクティブユーザーを一部でも取り込めれば、ユーザーベースを現在の1200万から大きく拡大できる。サービスの利用者が増えれば、プレミアム版に登録するユーザーも増えることだろう。もっとも、利用者が急激に増加することで、サーバーに過負荷がかかることも懸念される。このあたり、正式発表時に何らかの言及があるのかもしれない。

他方、Mozilla側のメリットとして、評価の確立された「あとで読む」サービスを直ちにユーザーに提供できることが挙げられる。また、上記Bug 1155523において、FirefoxアカウントによってPocketにログインできるようにすると説明されており、今回の統合は、Firefoxアカウントを普及させる方策でもあるわけだ。他社サービスの統合にまで踏み込んだ割には、Mozilla側のメリットが小さいようだが、検索サービスの場合と同様に、Mozillaに対価が支払われると考えれば納得がゆく(こちらは発表時にも言及はされないだろうが)。

Mozilla Corp.の内部ですら開発者らにRIL社との交渉経過が伝わっていなかったという経緯については、開発のあり方として一抹の不安を覚えるものの、Pocketの統合によってFirefoxの利便性が高まる点は、素直に喜びたい。

(15/05/17追記)
MozillaやRIL社から提携に関するアナウンスはないが、現在公開されているFirefox 38.0.5 BetaではPocketの統合が有効化され(リリースノート)、ユーザーが利用可能な状態になっている。

一時はローカライズなしで投入されるという話もあったのだが、通常の手順を踏まず、翻訳された文字列をハードコードする方法によって、英語以外に、ロシア語、日本語、スペイン語およびドイツ語をサポートした(Bug 1162283)。

なお、既存のPocketアカウントがある場合に、Firefoxアカウントでログインするとどうなるのか試してみたが、少なくとも登録しているメールアドレスが共通だと既存のアカウントにログインするようだ。

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(15/06/03追記)
Firefox 38.0.5がリリースされ、当初の予定どおりPocketは本体に統合された(Firefox がオンライン生活のコントロールを可能に | Mozilla Japan ブログ)。

上で記載した内容をアップデートしておくと、既にPocketのSocial APIボタンを利用している場合は、アンインストールされて新しいウィジェットが導入されるのに対し、Pocketのアドオンを利用している場合は、アドオンが優先される(Bug 1155521のパッチ参照)。また、リリースノートに記載された「リーダーモード」は、リーダービューのみで、リーディングリストを含んでいない点がAndroid版Firefoxと異なっている。つまりPocketと重複する機能は省かれているわけだ。

Mozilla Corp.とRIL社との提携については、Pocketのブログで発表された(Pocket is Now Built Into Firefox!)。記事の末尾の署名を見ると、CEOであるNate Weiner氏が記載したものとみられるが、同記事によれば、今後、Pocketアドオンはメンテナンスのみが行われることになる。

明示的に会社間の関係という形式をとっていないこともあり、発表からは提携に伴う対価の支払いがどうなっているのかをうかがい知ることはできないが、この点に関しては、PE HUBの"Pocket picks up $7 mln in NEA-led round"に引用されたRIL社のプレスリリースが興味深い。同社が2015年4月に700万ドルの資金調達を行ったことに関し、その使途を開発チームの拡大およびパートナーとの統合強化と述べているからだ。資金調達の時期からみて、この700万ドルの一部がMozilla Corp.に支払われたとみてよいのではないか。

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