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MozillaがPocketを買収 その狙いとは

MozillaがFirefoxにPocket(旧Read It Later)を統合すると決めたのは、2015年4月のことだった。それから2年近くを経て、Mozilla CorporationはPocketの開発企業であるRead It Later, Inc(以下RIL社)を買収し、完全子会社化する。この買収に伴い、Firefoxに統合済みの部分だけでなく、Pocketのコードは全面的にオープンソース化される予定だ(Bug 1343006)。ただ、有料版の扱いなど現時点では不明な部分も残る。

Mozillaの発表によれば、今回の買収はPocketが持つコンテンツのレコメンデーション機能を評価したものだという。だが、Pocketを統合した当初の目的は、そうした機能を取り入れることではなかった。MozillaはFirefoxに独自の「あとで読む」機能を実装し、デバイス間で保存リストを共有可能にしようとしていたのだが、それよりもRIL社と提携してPocketを統合するほうが、大きなメリットを得られると判断したのである。RIL社のNate Weiner CEOもインタビューの中で、Mozilla側から統合の話を持ちかけたことを示唆している。

MozillaとRIL社の取引は、レベニューシェア契約を含むものであったと判明しているが、おそらくMozillaにさほどの利益をもたらすものではなかったはずだ。今回の買収にあたり、Pocketに月間アクティブユーザーが1000万人いて、保存されたコンテンツが30億に達することが強調されているけれども、RIL社は総勢25人という小さな会社にすぎない。Mozilla以外の複数社から投資を受けてこの規模なので、米Yahoo!と複数年契約を結んで潤沢な手元資金を有する1000人規模のMozilla Corp.が、RIL社を買収して収入を増やそうとしたとは考えにくい。

Mozillaの意図を読み解く鍵は、Context Graphプロジェクトにある。その全貌はいまだ判明していないが、ユーザーの行動履歴を踏まえておすすめのWebコンテンツを提示する機能を提供しようとするものであることは確かだ。つまり、レコメンデーションである。将来のFirefoxに搭載されるほか、スマートフォン向けアプリとしても提供されることになっている。

ここでいう行動履歴には、Webの閲覧履歴やブックマークだけでなく、位置情報も含まれる。そして、匿名化された多数の行動履歴をあらかじめMozillaが収集・分析しておき、その結果をレコメンデーションに使う点が重要だ。Mozillaは今回の発表の中で、Pocketのコアチームと技術がContext Graphの取り組みを加速させるだろうと述べている。レコメンデーションの精度向上に応用するというわけだが、Pocketが擁する30億もの保存データを使わない理由はないだろう。

ユーザーの行動履歴の中にPocketの保存データを含めるメリットは2つ考えられる。1つはユーザーデータの多角的な収集だ。ユーザーが全く興味のないコンテンツを「あとで読む」ために保存する可能性は低い。ブックマークやWebの閲覧履歴と照らし合わせることで、ある特定のタイプのユーザーがどのようなコンテンツを好むのか、より深く分析できそうだ。もう1つはユーザーデータの広範な収集だ。将来的にアプリ版が大ヒットすればともかく、Firefoxでの利用をメインに考える以上は収集できるデータもFirefoxユーザーのものに限られる。だが、PocketはFirefox以外のブラウザに対応しているし、アプリ版もある。Pocketの保存データを加えることで、Firefoxユーザーを母集団とする偏りを是正できるかもしれない。

Mozillaの真の狙いがPocketの持つ大量のデータにあるのだとすれば、Pocketがブランドも含め現状のまま存続するという今回の発表内容もうなずける。データはWebの現状を的確に反映した最新のものに更新され続けてこそ意味があるわけで、FirefoxがPocketというサービスを囲い込むのは愚かな行為だからだ。ChromeやSafariのユーザーにもどんどんつかってもらい、アプリ版も広く展開していくのが正解なので、おそらくその方向に進むだろう。また、RIL社の完全子会社化も、Pocketに蓄積されたデータを独占するという側面がありそうだ。

もっとも、Pocketが擁するデータをMozillaの別のサービスに使うのであれば、利用規約やプライバシーポリシーの改訂が必要になってくるだろう。Mozillaはこれまでオプトイン方式でユーザー情報を収集する方針を貫いてきており、子会社となったPocketにもこの方針を適用するのが自然なはずだが、その場合レコメンデーションの精度を高めるためにできるだけ多くのデータを収集したいという要請とバッティングする。今後どのような形で折り合いを付けていくのか興味深い。動向に注目したい。