Mozilla Flux

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Firefoxの最新開発版を日本語で使おう

Firefox 3.5のリリースから2ヶ月近くが経ち、世界規模で見るとFirefoxユーザーの約3割がこの最新の系列を使用している現在、11月のリリースに向けてFirefox 3.6(コードネームNamoroka)の開発が急ピッチで進められている。

既にNamoroka Alpha 1がリリースされ、次のステップはFirefox 3.6 Beta 1である。Alpha 1は英語(en-US)版だけしか用意されなかったので、Beta 1日本語版を待っている人もいると思う。

では、Beta 1が出る前に、実装予定の機能を体験する方法はないのだろうか。英語メニューでの操作を敬遠してAlpha 1をパスした人が、Firefox 3.6の改善点(高速化など)を味わうにはどうしたらいいのだろう。

Namorokaのナイトリービルド(Nightly Build)を利用するのが確実だ。これは、Firefoxを開発しているMozillaが、テスト目的でユーザーに公開しているもので、名称こそ違うけれども、Firefoxと同じように、Windows版/Mac OS X版/Linux版を対象としたインストール可能なパッケージが提供されている。ナイトリーの名で呼ばれるのは、毎日未明に作成されるからである。前日の開発成果を盛り込み、開発者自身やテスターたちが実際に使用することで、機能を確認し、バグを洗い出すわけだ。

Namorokaの最新ナイトリービルドは、現時点でいえば、Namoroka Alpha 1とFirefox 3.6 Beta 1の中間に位置する。開発版なので製品版のように安定しているわけではないが、日々の開発の中で配慮されているため、一つ前の公開用開発版よりはバグが少ない。たとえば、今のNamorokaナイトリーは、Namoroka Alpha 1よりも安定していると見ていい。

肝心の入手方法だが、次のディレクトリから行える。

http://ftp.mozilla.org/pub/mozilla.org/firefox/nightly/latest-mozilla-1.9.2-l10n/

リンク先を開くと、たくさんのファイルが並んでいるので驚くかもしれない。Firefoxは多数の言語をサポートしていて、それが複数のOSにわたるので、どうしてもリストが長くなってしまう。『Offering Namoroka l10n nightlies for downloads』(英文)というニュースグループの投稿によれば、560ものリンクがあるそうだ。投稿主のAxel Hecht氏も見にくいことは承知していて、将来はFirefoxのように整理されたWebページにまとめたいと述べている。

リストの中で、ファイル名に「ja」や「ja-JP」と付いているのが、日本語版だ。たとえば、Windows版のインストーラなら「firefox-3.6a2pre.ja.win32.installer.exe」になる。ただし、「3.6a2pre」の部分は開発の進展に伴って「3.6b2pre」といったように変わっていくだろう。

インストール先のフォルダはFirefoxとは別になるし、アイコンも地球の形をしたシンプルなもの。アイコンのタイトルもNamorokaで、Firefoxのブランドは排除されている。

利用に当たって気をつける必要があるのは、プロファイルの扱いだ。プロファイルには、ブックマークやパスワード、ユーザー設定など、さまざまな個人情報が含まれている。Namorokaは開発版であり、製品版であるFirefoxとプロファイルを共有するのは、データ破損などのリスクがあるので避けるべきだ。Firefoxサポートの『プロファイルの管理』や、Mozilla Firefoxまとめサイトの『プロファイル』をよく読み、Namoroka専用のプロファイルを作成して使うのがよい。

さて、ナイトリービルドの醍醐味は、自動アップデートにあるといっても過言ではない。最新の開発成果が手元に届けられる瞬間だ。Firefox 3.7の開発版(現在のコードネームはMinefield)と違い、毎日修正が入るとは限らないものの、アップデート自体は毎日提供される。Firefoxと同じく、一つ前のバージョンからアップデートするときは差分アップデートに、それ以前のバージョンからアップデートするときはフルアップデートになる。ナイトリービルドは更新頻度が高いので、フルアップデートを目にする機会もけっこうある。ちなみに、差分アップデートに失敗したときもフルアップデートに切り替わる。

長い間、このナイトリービルドの自動アップデートは、英語版のみの特権だった。日本語版Firefoxは、英語版をローカライズ(地域化)したものであり、メニューや設定画面、メッセージなどが翻訳されているほか、検索サービスの設定もオリジナルだ。開発版でもそれは変わらないが、製品版と異なり、日々の開発の中で新しい文字列が付け加わったり、既存の翻訳文字列が見直されたりする。最近まで、こうした変更をナイトリービルドに適切に反映させる仕組みがなかった。そのため、英語以外の言語の最新開発版を試そうと思うと、毎回新しくパッケージをダウンロードする必要があったし、翻訳が追いついていないケースだと本体が英語版より古い内容になることもあり得た。だから英語版に言語パックを適用し、日本語化して使うユーザーも少なくなかった。

しかし、Mozillaのエンジニアたちの努力が実を結び、現在ではローカライズされたナイトリービルドも自動アップデートの対象に含まれている。Minefieldナイトリーがその対象になったとアナウンスするのが、Chris Cooper氏のブログ記事『Nightly updates for localized builds on mozilla-central』(英文)であり、ここに書かれている内容は、今ではNamorokaナイトリーにも当てはまる。

より具体的な例を挙げると、差分アップデートによって、日本語版Namorokaナイトリーは、次のような形でバージョンが変化する。Geckoの後の数字や、IDが変わっているのがわかるだろう。

(前)
Mozilla/5.0 (Windows; U; Windows NT 6.0; ja; rv:1.9.2a2pre) Gecko/20090822 Namoroka/3.6a2pre ID:20090822050913

(後)
Mozilla/5.0 (Windows; U; Windows NT 6.0; ja; rv:1.9.2a2pre) Gecko/20090823 Namoroka/3.6a2pre ID:20090823051740

アップデートによって、1)内容が英語最新版に追いついているか、2)翻訳されていない文字列はどうなるか。この2点をCooper氏に上記記事のコメント欄で質問したところ、以下の回答を得た。

@Rockridge: Yes, if you start using a nightly l10n build (say “ja”), the nightly update will include all the fixes from the en-US nightly, along with any new localized strings that were added since the previous nightly. Axel has blogged previously about how all l10n builds are now “l10n-merged”, meaning that if new en-US strings are added in a nightly build, they are automatically included in any corresponding l10n nightly builds as placeholders until the localization teams can catch up. This prevents l10n nightly build bustage (as happened previously) and allows nightly l10n testers to receive the benefits of any new code quickly.

(訳)
@Rockridge:そうです、もしナイトリー・ローカライゼーション・ビルド(たとえば「ja」の)を使っているなら、そのナイトリーのアップデートは、en-US版ナイトリーの修正すべてを含むとともに、前のナイトリー以降に加えられた、新しくローカライズされた文字列も入るのです。Axelが以前、すべてのローカライゼーションビルドが現在どのようにして「ローカライゼーション統合」されているのかについてブログ記事を書いていましたが、その意味は、もし新しいen-US版の文字列が、あるナイトリービルドに加えられたとすると、それらが自動的に対応関係にあるローカライゼーションビルドに含められ、ローカライゼーションチームが追いつけるまで代役を務めるということなのです。この措置は、(以前起こったような)ローカライゼーション・ナイトリー・ビルドの作成失敗を防ぎ、また、ナイトリー・ローカライゼーション・テスターたちが新しいコードの恩恵を素早く受けられるようにします。

つまり、最新の日本語版Namorokaナイトリーは英語版のそれに内容的に追いついており、未翻訳の文字列はそのまま英語で表示されるのだ。未翻訳のものがそのまま、というのはあまり格好のよいものではないが、他が日本語化されていれば利用に支障はないだろう。余談だが、Google Chromeの開発版(Dev版)も「未翻訳のものはそのまま」である。

この日本語版Namorokaナイトリー、実は英語版と比べて一つだけ弱点がある。それは、リリースのタイミングだ。米国の太平洋時間(PT)を基準に、英語版は午前6時台にはアップデートが提供されていることが多いのに対し、Armen Zambrano氏が『en-US nightly updates for win32 not as timely as it used to be』(英文)で説明しているところによると、ローカライズ版は午前7時からパッケージング作業が開始される。その作業が完成してアップデート用データが配布されるまで、最低数時間はかかる。
このタイムラグに加えて、間の悪いことに日本時間だとアップデートの配布が開始されるのは未明の時間帯だ。リアルタイムで受け取れる人は少数だろう。

とはいえ、区切りとなるAlpha版やBeta版を数週間〜数ヶ月待つことに比べれば、たいしたことがないとの見方もできる。日本語版の使い勝手はそのままに、Firefoxが日々少しずつ様相を変えていく様子を眺められるのだから、多少のデメリットはやむを得まい。

最後に、Beta版などと同様、アドオンのバージョンチェックに引っかかる可能性は高いので、覚悟しておいてほしい。あらかじめ「Nightly Tester Tools」をインストールしておくなどの対策を講じておくと後が楽だろう。