Mozilla Flux

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UbiquityとFirefoxの融合に向けて

Ubiquityをどのような形でFirefoxと自然に統合するか。これが単なる目標ではなく現実的な課題になったことは、『Firefox 3.2を補強する三つの柱』で説明した。近頃、開発者のAza Raskin氏が新しいモックアップを発表したので紹介しておきたい。

初期のコンセプトについては、『UbiquityはFirefoxの一部となれるか』で触れたので繰り返さない。手短に言えば、そこで書いたデザイン2の案が新案のベースである。

ロケーションバーの履歴一覧にコマンドボタンを付加し、ユーザーがボタンを選択したときは、サイト識別ボタンの右隣にそれが表示される。バー内には入力すべき内容が薄い文字で表示され、ユーザーが入力を始めると、自動補完機能がはたらく。処理結果はページではなく、候補一覧の画面に反映される。

ただ、ロケーションバーはURLを打ち込むところであって、そこにそれ以外の情報を入力する仕様は、ユーザーを混乱させるかもしれない。なので、ロケーションバーの真下にUbiquity用の入力領域を出す形式もありうるという。

今回、新たに「発見しやすさ」が統合のコンセプトに加わった。そこで意図されているのは、ユーザーが使い込んでいくうちに、システムからもっと深い利用方法を教えてくれるようなデザインである。言い換えれば、Ubiquityが適切な場面でユーザーに提案をするのだ。

たとえば、Webで買物をするとしても、利用できるサービスはたくさんある。ユーザーがサービス名を入力するよりも、Ubiquityが選択肢を並べてくれたほうがはるかに楽だ。そこで、コマンドに合わせたサービスがドロップダウンメニューの形式で提示され、ユーザーはマウスをクリックするだけで切り替えられるようにする。

また、利用するWebサービスによっては、目的語の他に補語を入力すべき場合もある。たとえば、翻訳であれば、文章に加えて、何語に訳すのか指示が必要だ。そこで、"to"とか"from"といった助詞をロケーションバーの右端に用意し、ユーザーがスライドさせて使うというふうに工夫した。

こうしたインターフェイスが使いやすいかどうかは、もはやモックアップだけで判断するのは難しい。実験的なビルドか、少なくともアドオンが提供されるべき時期にきているように思われる。

また、今後の課題として、複数のコマンドを組み合わせる方法も探っていくことになるだろうが、それよりも、ローカライズの問題が極めて重要だ。

この問題に取り組んでいる言語学者兼プログラマーのmitcho (Michael 芳貴 Erlewine)氏は、"Ubiquity in Firefox: Focus on Japanese"の中で、ローカライズが単なるコマンドの翻訳では済まない事実を鋭く指摘する。たとえば、日本語では動詞よりも目的語が先に来る。ユーザーが何をしたいのかは、文章の最後まで明らかにならない。英語の語法に合わせた使用法をユーザーに強いるのでなければ、Ubiquityが日本語に合わせたインターフェイスを提供するしかない。

しかし、それは非常に難しい。Raskin氏の上記アイデアは、動詞が先にくる文法、つまり何をしたいかが冒頭で明確になる言語構造を前提にしている。ユーザーがまず「買物をする」と指示するから、多様なサービスを提案できる。「翻訳する」と指示するから、助詞を提案できる。もし、「本」とか「ケーキ」といった単語から入力されたとしたら、ユーザーが買物をしたいのか、その言葉を翻訳したいのか判別できない。

加えて、mitcho氏が指摘するのは、英語と違って日本語には言葉の間にスペースが入らないということ。それだけ解析は難しくなる。当面はコマンドと割り切って単語を細切れに入力してもらうしかないのだろう。

Ubiquityが自然言語による処理を目指すだけに、本質的な困難に突き当たってしまった。日本語に関して示されたものだけでなく、アラビア語のように右から左へと読む言語ではどうするのかといった問題も解決を迫られるはずだ。しかし、開発期間を考慮すれば、Firefox 3.2では限定的なソリューションしか示せないだろう。とりあえず英語の語法に合わせた使用法で統一することも充分考えられる。