Mozilla Flux

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カレンダープロジェクトの危機的状況

速報:LightningがThunderbird 3との統合を断念』に引き続き、カレンダープロジェクトがいかに厳しい状況に置かれているのか見ていきたい。

少数精鋭といえば聞こえはいいけれど』で紹介したように、"Mozilla Calendar Project"は、作業の大半をわずか3.75人のメンバーでカバーしていた(2008年末時点)。内訳は、開発者2人とQAエンジニア1人がフルタイムで、ビルドエンジニアとUI関係のリーダー各1人がパートタイム(それぞれ50%と25%)。しかも、全員がSun Microsystemsの社員だ。

このSunの社員ばかりという状況が、今回の悲劇につながる。フルタイムの開発者がみんな別の仕事に回ることになったのだ。その結果、パートタイム開発者だけが残った。おそらく、世界的な不況が影響してSunに余裕がなくなり、配置転換がおこなわれたのだろう。

もし、プロジェクトのメンバーが多数いて、出身もばらけていれば、Sunの方針転換はさほどの影響をもたなかったはずだ。しかし、実際は直撃を受けた。筆者は、前記の記事で「次のバージョンでは、この人手不足がいよいよ深刻な問題になってきそうだ」と書いたのだが、事態は予想を上回るスピードで悪化した。振り返ってみれば、1月上旬にLightning開発チームのリーダーが交替したのも、よくない前兆だったのだ。

開発リソースが大きく減少したことで、バグの修正率は著しく低下するだろう。この事態に対処するため、Calendarプロジェクトの開発チーフ、Philipp Kewisch氏はSunbirdの開発中止を決断した。リリースは1.0までで、その後はメンテナンスもしないものとみられる。Lightningと同時にサポートする時間がとれないのが理由だが、Sunbirdが選ばれなかったのは、人気の差が大きい。Lightningのダウンロード数は、Sunbirdの二倍だったという。また、LightningとThunderbirdの統合に重点を置いて開発してきたため、Sunbirdへの再実装が必要な機能も多くなっていた(アドレス帳やLDAPの統合など)。

そして、Thunderbird 3への統合も見送られた。この点に関しては、Mozilla Messaging社のCEO、David Ascher氏が詳しく説明している。主な理由をピックアップすると、次のようになる。

  • Thunderbirdのインターフェイスモデルが流動的であるため、カレンダーチームがLightningを最適な形で統合する方法が見つからない。
  • LightningをThunderbirdのコアに組み込むには相当な量の作業が必要である。たとえば、いまだにタスクマネージメントやカレンダー機能の一部だけを選択することができない。アカウント設定は初心者には難しすぎ、エラーメッセージは暗号のようだ。
  • Lightningをコアプロジェクトとすると、新たに大量の複雑なコードが加わることになり、メンテナンスも相当なものになることが予想されるが、現段階ではそれにコミットできるだけの開発者を確保できない。

どれも正しいのだろうが、結局は開発とメンテナンスに充分なマンパワーを割けるのなら解決できるはずの問題である。「人手不足なので無理でした」とはっきり発表すると差し障りがあるので、婉曲な表現になったように見える。大人の事情というヤツだ。

Ascher氏によれば、Lightningは、Thunderbirdのスケジュールに縛られずに開発を進め、アドオンとしてさまざまなカレンダー機能を充実させていくのがベストだという。Thunderbirdのメジャーリリースよりも頻繁にバージョンアップできるメリットもある。また、Thunderbird 3は新しいアドオンマネージャを搭載しているため、ユーザーがLightningを探してインストールすることも容易になっているとする。

やはり嘘は述べていないものの、カレンダーチームの生々しく、悲壮感が漂う説明と比べると淡々としている印象だ。Mozilla Messagingとカレンダーチームの温度差は興味深い。一般には、ThunderbirdがOutlookに対抗するため、カレンダー/スケジューラとの統合は重要といわれていたはず。にもかかわらず、統合を諦める旨の発表があっさりしているのは何か理由があるのだろうか。

さて、カレンダープロジェクトに話を戻すと、カレンダーチームが自分たちの置かれた状況を吐露したのは、説明責任もあるが、広く開発者に協力を呼びかけるためだ。「みなさんの力添えがプロジェクトの存続を決するので、私たちはこの件でユーザーおよび貢献者のコミュニティとコミュニケーションを図ることが重要だと感じている」とKewisch氏は述べる。別のメンバーの説明では、今のままだとMicrosoft Exchangeのサポート、タスクマネージメントの改良、デバイスの同期、さらなるパフォーマンスの改善といったことを近い将来に実現するのは不可能だという。

とはいえ、フルタイムの開発者がすぐに現れるはずもない。この不況下でどこかの企業がサポートを申し出るのも望み薄だ。多少なりとも協力してくれそうな人をできるだけ集めて、パッチワーク的に組み合わせていくことになるのだろう。もともとオープンソース開発とはそのようなものなのだとも言えるが、効率が悪くなることは避けられない。Lightning 1.0のリリースは今年後半になる見通しだが、7月ではなく、もっとずっと遅い時期になる可能性が高い。