Mozilla Flux

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Mozillaが向かう先

Mozillaの使命に沿って製品と技術を進化させるにはどうすればよいか。この問題意識に基づき、Mozilla Foundationの会長であるMitchell Baker氏が2010年末までの目標を定めた。FirefoxもThunderbirdもMozilla Foundationの子会社がリリースする製品なので、開発の方向性はこの目標に従うことになる。

以下に、その目標の内容を訳して掲載する。ちなみに、9月に発表された初版は、既にMozilla Japanのブログで「2010年に向けた目標」として翻訳されている(余計なお世話だが、このタイトルだと2009年末までの目標という意味にも取れるので、不適切だと思う)。それに対し、当翻訳の対象は、2009年1月5日付けで発表された最終稿である。

統合編集版2010年の目標

これが最終の、統合されたセットとしての2010年の目標だと私が思うものです。何か大きな問題を見逃していたら教えてください。

1.オープン性、参加、分権化された意思決定をインターネット生活において今まで以上にあたりまえの体験にする

  • これらの価値を実践するより多く、より強いMozillaコミュニティー
  • Mozillaの経験を、オープンWeb、ハイブリッドな社会的企業、組織の持続可能性、共有された意思決定、個々人によるコントロール、そしてインターネット生活における可搬性といったトピックにますます適用されるように
  • さまざまなソースからイノベーションが出現する
  • これらの価値に基づくプロジェクトと製品−Mozillaやそのほかの場所でーがより活気づく
  • 卓越性、技術その他を通じたリーダーシップ
  • オープンコンテンツの作成がより簡単になる
  • Webがアプリケーションにとって主たる開発環境になる

2.爆発的なデータを個人にとってより安全で、有益で管理可能なものにする

  • 人々が生み出したデータあるいは人々についてのデータを、理解し、管理し、結合し、共有し、移動させるための現実的なオプションを、製品が人々に提供する
  • 人々は、自分たちのデータを理解し、入手し、管理し、結合し、共有し、移動させることができると期待している

3.モバイルを、統一され、オープンで革新的なWebに統合する

  • モバイルにおけるWeb体験をエキサイティングで楽しいものにする
  • 製品
    • 開発環境としてのWebの力を実証する
    • さまざまなソースからのイノベーションを加速する
    • ユーザーを喜ばせ、開発者を惹きつける
  • 新しいWeb標準は、あらゆるデバイスのためのものであって、モバイル専用に分離されたものや、いわゆる「Web」だけの標準ではない

4.Firefoxがイノベーション、選択、素晴らしいユーザー体験を推し進める役割を強化する

目標といっても、かなり抽象的だ。数値目標のような歯切れのよさはない。だが、開発を含めさまざまな活動を縛るような内容であっては困るのも事実。コミュニティの自由を阻害しない範囲での指針ということなのだろう。

それでも、いくつかの注目点は見いだせる。たとえば、「Webがアプリケーションにとって主たる開発環境になる」という点だが、Webがアプリの開発環境でありながら、動作環境でないなどということは、まずありえない。つまり、MozillaがWebアプリの開発と動作の基盤を提供するという趣旨に捉えることができる。そのような目標を実現できるリソースは、当然Firefoxに求められるだろう。したがって、Firefoxは「Webブラウザ」でありつつも、それを超える存在になろうとしていることが読み取れる。

FirefoxがWebアプリの基盤であろうとすれば、主要なOSすべてに対応し続けることが必要で、そのためにはコードの移植性を高く保たねばならない。また、セキュリティ面で堅牢であるとか、ユーザーインターフェイスを作成しやすいといったことも重要だろう。こうした要素はすべて、Webブラウザの観点からするとスピードを下げる要因になり得る。それでもMozillaとして上記の目標を掲げている以上、たとえばXULを捨てるなどの選択肢を選ぶことはないと考えられる。

もう一つ注目すべきは、集合的なデータの利用とコントロールに言及している点だ。Firefoxは世界中に莫大な数のユーザーがいる。ユーザーからさまざまな場面での利用状況を匿名で提供してもらえれば、その膨大なデータの集積を分析することで、有用な知見が得られるだろう。かといって、「プライバシー情報と引き換えに有用なソフトを提供する」のでは、公共性への貢献を謳うMozillaの理念に反する。とすれば、ユーザーの明確な同意の下にデータを集め、分析結果をオープンにし、それを製品に反映させるプロセスも透明にすることが要求されよう。

また、収集するデータも、極力プライバシーに関わらないものになるはずだ。知りたいのは個人の秘密や癖などではなく、いろいろな個性をもったユーザーが大勢集まったとき、どのような行動の傾向を示すかなのだから。

あと、モバイルを一つの柱に据えている点にも目を向けておきたい。現在開発中のFirefox Mobile(コードネームFennec)は、MozillaにとってFirefox本体と並ぶくらい重要な製品として位置づけられていくだろう。そして、モバイルの世界にWeb標準を持ち込むとは、逆に言えば、モバイルネットワークをWebに取り込んでしまうことでもある。「卓越性、技術その他を通じたリーダーシップ」という目標を掲げているところからも読み取れるが、Mozillaはモバイルネットワークがプロプライエタリな技術で固まることを断固として阻止しようとするはずだ。

ここまで、Firefoxに関連させて話を進めてきた。もちろん、Thunderbirdも向いている方向は同じはずで、たとえばThunderbird Mobileといったプロジェクトが出てきても何ら不思議はない。Thunderbird 3のリリース後には、もう少し将来の可能性が明らかになってくるだろう。