Mozilla Flux

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MozillaがProject Tofinoでブラウザの新たなあり方を模索中

新たなパラダイムの探究

Firefoxはその成功ゆえに革新が難しくなるというイノベーションのジレンマに陥っている。そうした問題意識を背景に、ブラウザのユーザーインターフェイス(UI)のコンセプトが、1996年ではなく、2016年に作られたとしたらどうなるかを実験していくのが、Project Tofinoだ。プロジェクト名は、着想を得た場所がカナダのバンクーバー島にある同名の地域であったことに基づく。

プロジェクトのトップはMark Mayo氏。Mozilla CorporationでFirefox部門のSenior Vice Presidentを務める人物である。また、Firefox部門のLead DesignerであるPhilipp Sackl氏もプロジェクトに加わっている。しかも、チームのメンバーを少数に絞ってTofinoとバンクーバーに集め、他のメーリングリストやミーティングからも外して専従させるという力の入れようだ。

プロジェクトの期間は3か月で、この間に製品化可能なコンセプトを生むべく実験を繰り返すが、ものにならなかったときはお蔵入りになる。

Browser.htmlとは別物

注意が必要なのは、Servoブラウザエンジンの実験的なフロントエンドであるBrowser.htmlとは別物だという点。Servoはhtml5everと呼ばれるHTMLパーザやWebRenderと呼ばれるグラフィクス・サブシステムを搭載したブラウザエンジンのプロトタイプであり、2016年6月に最初のα版のリリースが予定されている

Servoのα版を公開するにあたり、フロントエンド部分がないと使い物にならないため、付属してくるのがBrowser.htmlである。これ自体がXULではなくHTMLでネイティブアプリを構築する実験となっており、決して「新ブラウザ」の類ではない。そして、Project TofinoはServoからは独立したプロジェクトだ。

Electron/Reactを利用

Project Tofinoの実験は、アプリケーションのフレームワークとしてElectronを、UI用のJavaScriptライブラリとしてReactを用いる。ElectronはChromiumとNode.jsがベースなので、Project Tofinoの成果物は基盤部分においてChromeと共通になる。

Gecko/XULベースでないのは、Electron/Reactのほうが小さなチームで試作品を作るのに向いているからだと説明されているが、MozillaがXULの廃止に向けて動いていることや、上記のとおりServoのフロントエンドが実験中であることを考え合わせると、要するにGeckoは成熟しすぎ、Servoは未熟すぎるのだろう。

従来のブラウザを超えたデザイン

まさに実験が始まろうとしているところなので、Project Tofinoがどのような形になるかは未知数といわざるを得ない。ただ、若干のコンセプトは示されており、従来のブラウザはドキュメントを読むことを基本的なコンセプトにしてきたが、Project Tofinoではそこを出発点にはしないという。

また、最初期のスケッチ(2016年3月1日付け)を見ると、「タスク」ごとにページをまとめるアイデアや、Firefoxのツールバーに相当する部分をサイドバーに置くアイデアが出ているようだ。

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応用先も未知数

お蔵入りの可能性も十分にあるので、今から心配しても仕方がない面もあるが、仮に製品化可能な斬新なコンセプトが生まれたとして、その使いどころは悩ましい。

新コンセプトをFirefoxに適用するとなれば、UIの大改造を伴うから、インパクトはAustralis導入の比ではないだろう。UIが変わってしまえばWebExtensionsベースの拡張機能であっても互換性を維持しづらくなる。UIは慣れの部分も大きく、いかに優れたコンセプトであっても、ユーザーの強い反発は免れない。かといって、コンセプトの一部のみを移植することもできない。UI全体が生み出すユーザー体験にこそ意味があるからだ。

他方、α版段階のServoと組み合わせるとなれば、製品化に時間がかかりすぎる。そもそも、Servo自体が試作品であり、そのまま製品の基盤になると保証されているわけではないのだ。

あと考えられるのは、Firefox OS搭載ブラウザぐらいか。スマートフォン向けはコミュニティに委ね、Connected Devices(IoT)に特化していくわけだから、例えばスマートTVに載せた場合、既存ユーザーの反発もほとんどなさそうではある。ただ、Firefox本体に比べて利用者はかなり限られよう。

いずれにせよ謎の多いプロジェクトであり、推移を見守るほかない。Mozillaがイノベーションのジレンマを打ち破れることを祈ろう。

(16/04/13追記)
A nail in the coffin for Firefox? Mozilla struggles to redefine browser - CNET日本語版)によれば、Project Tofinoの発表後、Mozilla Corporationの内部で、発表はフライングであり、Positronについて触れずにGecko/Firefoxの将来性に不安を抱かせた点でも間違いだった、との意見が出たらしい。Mayo氏も発表の中で事前に社内で大きな抵抗を受けたことを強く示唆していたが、新しい動きを潰そうとするのは健全とはいえないだろう。最近、Mozilla FoundationのMitchell Baker理事長が、All Change, All the Time | Mitchell's Blogの中で、変化の大切さを繰り返し強調していたのだが、その背景には抵抗勢力を牽制する意図があったのかもしれない。