Mozilla Flux

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Lorentz(Firefox 3.6.x)とは別に、今年第3四半期にFirefox 3.7がリリース予定

めまぐるしく変わるFirefox 3.6リリース後のスケジュールだが、MozillaはFirefox 3.7を今年第3四半期(7〜9月)にリリースする予定である、とCNET News『Firefox 3.6 due this month; next comes 'Lorentz'』が伝えている。開発総責任者(Director of Firefox)Mike Beltzner氏への取材に基づく内容であり、確度は高い。

どうやら、Lorentzプロジェクトはプラグインの別プロセス化機能(OOPP)に特化した形へと縮小され、Firefox 3.7は、時期が少し後ろにずれたが、復活したようだ。Gecko 1.9.3レンダリングエンジンをベースにする点も、Lorentzが出てくる前のプランと変わりない。ただ、Jetpackの統合はこの3.7の時点で行うらしい。

Beta版を第2四半期(4〜6月)に出すそうなので、全般的にあまり大きな改修は望めない。もともとFirefox 3.6を昨年11月にリリースすべく、比較的早い時期にTrunkとmozilla-1.9.2 Branchを分けていたことから、Trunkにだけ投入された変更点がある程度の数に上っている。主にその部分を製品に反映させようというつもりなのかもしれない。

当初の「Firefox 3.6(09年11月)→3.7(10年5月ころ)→4.0(10年末)」という流れからすると、2〜4か月進捗が遅れる代わりに、3.6.xのラインにLorentzが割り込んだ形となる。Beltzner氏が別の場所で説明したところによると、OOPPの導入に当たって、APIの変更が必要と思われたので3.7へのバージョンアップを予定していたが、後でそうした変更は不要と判明したので、3.6.xのラインでいくことにしたのだという。また、プラグインの別プロセス化によってセキュリティと安定性が増すのだから、従来のマイナーアップデートの基準を外れるものではないとしている。

とはいえ、Beltzner氏は、『Of rumours and broken telephones』というブログ記事の中で、Webブラウザを車に喩え、エンジンの燃焼効率が知らないうちに良くなっているなら素晴らしいことだが、ある日突然シフトレバーの位置が変わっていたら驚き腹を立てるだろうとも述べている。ブラウザのUIはメジャーバージョンアップがない限り変わらないが、例えばFirefox 3.6に投入されるWOFFフォントフォーマットのサポートやオープンビデオエンジン(Theora)の改良といったレベルのものは、今後マイナーアップデートでも提供可能との判断だ。

既存の機能を妨げない限り、新機能であっても積極的にマイナーアップデートの中に取り込んでいくとの方針が窺える。その第一歩がLorentzプロジェクトであり、ハードウェアの面でそれが可能なだけのインフラをMozillaが整えつつあることを示している。

上記CNETの記事では、Stephen Shankland記者がMozillaに取材して、今回のニュースをものにした。そこには、Firefox 3.7を4.0と名称変更するかもしれないとの記述もあり、この点が逆に、Firefox 3.7がGecko 1.9.3ベースになることを裏付けている。たぶん、スケジュールが遅れたらMozillaは躊躇せずバージョンを変えるだろう。

これに対し、PC ProのStuart Turton記者がComputerworldの記事を基に書いた『Firefox 3.7 dumped in favour of feature updates』は、MozillaのAlexander Limi氏からコメント欄でダメ出しを喰らっている。Firefox 3.7を捨てたというが、捨てられたものなど何もない、と。

しかし、Computerworldの記事もまた、CNETの記事と同様、Beltzner氏への取材に基づいて書かれたものだ。そこでは、Firefox 3.6の次のバージョンが2010年末から2011年初めにリリース予定とされ、3.6の開発の遅れで心変わりした結果だとの理由まで付されている。この予定は、Lorentzが当初Firefox 3.7の仮称を与えられていたことや、一時期Lorentzに追加可能な新機能をいろいろ探っていたこと、Firefox 4.0の直近のUIモックアップがもともとFirefox 3.7で予定されていたデザインを取り込んでいたことなどの状況証拠とも合致する。

つまり、Mozillaに直接取材しなかった点に問題があるとはいえ、PC Proの記事は誤報でなく、たんにBeltzner氏が迷っていただけのように見えるのだ。「Firefox 3.7(10年5月ころ)→4.0(10年末)」という流れを、「Lorentz(10年第1四半期)→4.0(10年第4四半期)」に変えたのだから、LorentzがFirefox 3.6.xになると判明すれば、3.7は捨てられたと考えるのが自然だろう。「第3四半期」に「Firefox 3.7」を出すプランがあるなどと誰が想像できようか。

現在想定されているFirefox 3.7は、再度スケジュールに挿入されたものだと推測される。その器に何が盛られるのかは、これから決められるはずだ。何しろ、Gecko 1.9.3の開発期間は、いったん1年近くにまで伸びたと思ったのもつかの間、また半年になってしまったのだから。

Google Chromeとの対抗上、半年程度で次のバージョンを出すのは仕方ない。だが、すべてを半年で区切ってしまう必要が本当にあるのか。たとえば、Intelの「Tick-Tack戦略」に倣って、Firefoxのフロントエンドとバックエンドを分け、開発期間を1年としつつ、リリース時期を半年ずらすのはどうだろう。こうすれば、フロントエンド→バックエンド→フロントエンドという形で半年ごとにリリースできるし、変化の内容もわかりやすい。バージョンナンバーも0.5ずつ上げていけばいい。ただ、TraceMonkey(JavaScriptエンジン)だけは毎回改良版を出し、フロントエンドに新機能を追加しても動作が重くならないようにする。

スケジュールの策定は慎重に行われるべきだ。場当たり的に変えると、開発者もユーザーも混乱する。Beltzner氏は「ソフトウェア開発は混沌としたものだ(Software development is chaotic)」と弁解するが、混沌としているのはマネージメントの間違いではないか。